ドア

みぢかを機能で考える <第25回>

Original 2017/11/29

人が住むところにはどこにでもある、みぢかの中でも特に身近なもの。 今回は「ドア」の機能を考えてみましょう。 開き扉、引き戸などいろいろな形態がありますが、それらを総称してここでは「ドア」と呼ぶことにします。

ちょっと複雑なドアの機能

さて、「ドアの機能」を考えてみようとすると、ドアには必ず2つの状態があることに気づきます:

1)開いた状態

2)閉じた状態

です。

そうです、ドアは「状態によって全く異なる機能を持つ」という特徴があるのです。

1)開いた状態では、人(モノ)を通す

2)閉じた状態では、人(モノ)を通さない

これらの両方を兼ね備えて初めて「ドア」と言えます。

そして、これらの機能には「どのくらい」という水準(レベル)を考えることができます。 そしてそのレベルは、ドアに対する要求によって変わります。

例えば、普通の建物のドアなら、1)の機能のレベルは、「その地方に住む人が丁度通れる」というレベルの開口部で良いということになります。 日本の古い建物のドア(戸)は小さいものが多いですが、これは昔の日本人の背が低かったからですね。 これに対して、西欧の建物のドアは非常に大きいものが多いです。 これは比較的西欧人の背が高かったということもありますが、それ以上に、建物やドアに「荘厳さ」を求め、それを大きさで表現した、ということもありそうです。

そもそも、西欧の建物は天井がとても高いですよね。 逆に日本の茶室の入り口のドア(戸)は歩いては入れないほど低いです。 これは「茶の湯」の作法が「必要最小限の空間」を追求したために、「躙って(にじって)入る」という入り方で十分である、とか、頭を下げて地位や立場をリセットし一人の人間として入って欲しい、という要求から来ているといわれています。

2)の機能のレベルは、普通の建物のドアでも「人」基準でない場合が多いですね。 例えば玄関のドアなら「雨やほこりが入らない」という要求があるので、「水や細かい塵を通さない、機密性」が必要になります。 逆に門の扉などは、機密性は必要なく「人が入れない」という要求さえ満たせばいいので、格子状の門もあります。

ではここで、2)の「閉じた状態ではモノを通さない」という機能の「水や細かい塵を通さない」レベルを実現するための手段を考えてみましょう。

よくあるのが「パッキン」あるいは「シール材」を用いる、というものです。 ただし、これがすべてではありません。

例えば、ミクロン単位の加工技術があって、ドア枠とドアに「テーパー(斜面)」をつければ、押し付けるだけで機密性が確保できます。

逆に、「パッキン」あるいは「シール材」を用いても、元のすき間があまりに大きければ、機密性を確保するのが難しいでしょう。 ・・・ドア開口部の外周の半分の面積を占めるようなパッキンを想像してみてください。パッキン自体にも強度を持たせないと機密性が保てず、その設計は苦労するでしょう。

このように考えてゆくと、ものを設計する際には基本機能を実現する「骨格」となる部分と、ニーズに応じて付加価値を加える「付加的」な部分とがある、ということに思い当ります。 上の例では、ドア本体とそれを開閉する機構部分が「骨格」、パッキンは「付加的」であるということになります。

ドアにも「非常扉」「防火扉」といったものがあるように、その目的により、基本機能や付加機能に要求されるものが異なってくることはいうまでもありませんが、何らかの製品を設計する際には、構想段階でこの「骨格」をしっかりと決めて、基本機能を確立させた上で、それに「付加的」なものを加えることでモノへの要求をきちんと満たす、そういった全体俯瞰的な視点と部分最適の視点のバランスを保っていくことが重要であるといえそうです。

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