みぢかを機能で考える <第16回>
Original 2017/7/12
夏も7月になると、海水温は8月中旬頃までさらに上昇していきます。
そして、お盆までは海の波は比較的穏やかで海水浴にいい季節で、私が大好きな湘南も多くの海水浴客で賑わいます。
その後は土用波も更に高くなり・・・台風シーズンに突入!というのが、私が幼少の頃のセオリーだった気がしますが、最近はあまり季節感がないようですね。
さて、第9回のブログでは波について考えてみましたが、今回はサーフボードについて考えてみたいと思います。
カタチから機能を考える
サーフボードの機能とは何でしょうか?波乗りの道具なんていわないで、物理の原理原則で定義してみたいですね。 まずは、サーフボードの構造から機能を考えてみたいと思います。
サーフボード自体が受ける力は
- サーファーの体重やボードの重さ受ける重力
- ボードの浮力
- 波から受ける力
- 海面とボードの摩擦力
があります。
ボードそのものの浮力はボードの大きさ(長さと厚さ)、波から受ける力は波の大きさが支配的(波が高いほど伝播速度は速いので)と思います。
摩擦力は理論的には摩擦係数と荷重で決まりますが、ボードと海面の状況から摩擦係数は一定ではないことは想像に難くなく、接触面積によっても影響すると思います。 それらはボードのロッカー形状(ボード前後方向の反り)、ボードボトムのコンケイブ、コンベックス形状(ボードの左右方向の反りのこと。 コンケイブが凹、コンベックスが凸)が影響因子になります。 コンケイブは海面とボードの裏、表の水の流れによっては揚力を発生する因子にもなります。
これらからは、サーフボードは波の力や、サーファーからの力を受け止めており、受け止め方もその形状により状況が異なっているようです。
他の構造に目を向けてみましょう。 ボードにはフィンがついています。
前述したように、サーフボードにはさまざまな力が働いており、フィンのないボード(ただの板)では波の上をすべる方向が不安定になるため、直進安定性をあげるためにフィンが考案されました。 最初はシングルです。
ところが、それは必ずしも有効に働かない場合があります。
サーファーがボードを操作する状況を想像してみてください。 方向を変えるときにボードの面は海面に対して水平ではなく、相当な傾きを持っています。 すると、ボードの後ろ側、左右方向の中心につけられたフィンは、海面から飛び出してしますのです。 (それを「フィンが抜ける」というようです)
そこで、ターン後半でのフィンの海面からの抜けをなくすために、サイドフィンが生まれました。左右に2つ装着されたツインタイプです。
しかし、ツインタイプはボードを回転させやすいけれど、かならずしも直進性は高くなく、そこで中心にフィンを追加した3本フィンのトライが誕生したのです。
このようにフィンはボードを海面の上に走らせたときの安定性とターンの操作性の両立をするために進化してきました。
最近ではフィンが着脱できるようになり、そこでトライの中心のフィンを2本に分けて、直進安定性と操作性のバランスをさらに変えることのできる4本タイプ、クワッドがでてきました。着脱式なので、中心に1本、あるいは2本装着して、状況や好みによって変えることができます。
こう考えてくると、フィンはサーファー側からの視点で、波の上で直進性や回転操作性を狙いのレベルで確保するためのものであるといえます。
もう一つ、別の構造としてボードの後部、テールデザインがあります。テールをカットすると直進性と回転操作性のバランスは回転操作性が優先に変わってきます。
以上をまとめると、サーフボードは波とサーファーの力を入力として、それぞれの力の受け渡しをしながら、波の上を進んでいくための力を出力として取り出す機能があるといえるのではないでしょうか。
そしてプロサーファーは波の上を進んでいくための力を自由にあつかう高いスキルをもった人なのでしょう。
最終的な機能をどう構築するかは目的・目標から
しかし、最終的にその機能をどういうレベルにできるかは、どのようなサーフィンスタイルを求めるか(直進性なのか、それとも回転操作性が優先なのか)によって決まっていくものです。
それに加え、自らの技術レベルや波の状況はどうなのか?(大きさとか、どこで波が崩れるかなど)等、そういったことを明確にして目標を設定することが、最終的に機能の「因子」(ある機能の水準に影響を及ぼす、あらゆる内部要素・外部要因)を明確にすることにつながり、目標を達成する近道と考えています。
最後に自分自身が描いた理想のボードを的確にシェイプしてくれるシェイパーにめぐり合うことも重要な要素です。いい道具はいいテクニシャンから生まれることも忘れてはなりませんね。